2015年10月10日土曜日

新ストーリー:Fiora, the Grand Duelist

原文:Fiora | League of Legends


「名誉のために、あなたを殺します。あなたに何もなくとも、死になさい」

バローラン全土で最も恐れられる決闘者であるフィオラは、その鋼の細剣の速さにおとらず、無愛想な態度と狡猾な思考で名高い。デマーシア王国のローレント家に生まれたフィオラは、家門そのものを絶やしかねないスキャンダルが父親に発覚した時、家の当主となった。ローレント家の名声は地に落ちたが、その名誉を回復し、デマーシアの善良な貴族たちの中で正当な地位を取り戻すため、フィオラはあらゆる努力を惜しまず活動している。

幼少の頃から、フィオラはあらゆる期待に反抗してきた。彼女の母親はデマーシアでも一流のファッションデザイナーたちを抱え、彼女をまるで生きた人形のように扱った。フィオラは受け取った服を全てメイドに与えてしまい、兄の細剣を手に、兄から強引に秘密の訓練を受けていた。彼女の父親は素晴らしいドレスを着せるため、彼女付きの裁縫師にドレス用のマネキンを大量に与えたのだが、フィオラはそれらを突きと突き返しの練習に使ってしまった。

人生のあらゆるステージにおいて、フィオラはデマーシアの貴族という存在そのものを体現し、全てにおいて完璧であり、彼女の名誉や家族の理想を汚されることを我慢するよう努力してきた。ローレント家の末娘である彼女は、貴族の家同士の婚姻関係を結ぶ大きなゲームにおいて、政治の駒として一生を捧げる運命にあったのだ。たとえ父親であろうとも、他人の手によって屈辱を受けることに敏感であったフィオラには、これが合わなかった。彼女は反抗したが、政治的なアドバンテージを得るため、クラウンガード家の末席に連なる分家との婚姻が整えられ、夏に結婚式を行う予定となった。

招待されたデマーシアの古い家柄の貴族たちは、ローレント家の結婚式典に代表を送ったが、フィオラはこの運命をおとなしく受け入れず、抗った。彼女は自分の運命を誰かに支配されることで侮辱を受けるくらいなら、自分はすみやかに死を選ぶ、と集まった客人たちの前で宣言した。彼女の夫となるはずだった男性は公の場で辱められ、フィオラによる侮辱を拭い去るべく、決闘を望んだのだ。

フィオラはすぐに前に進み出たが、その決闘を受ける義務は、ローレント家の当主たる彼女の父親にあった。クラウンガード家の代理戦士はとても恐ろしい戦士で、敗北はほぼ確実と思われた。負ければローレント家は没落し、娘は恥辱の中に追いやられるだろう。選択の余地はないように見え、フィオラの父親は決断した。その後何年もの間、家族を地獄に落とす決断を。その夜、豪速で知られる相手の拳を鈍らせるため、飲み物に毒を仕込もうとした彼だったが、その試みは露見し、ローレント家の当主は逮捕された。

デマーシアの法は、厳しく許しのないことで悪名高い。その正義に余地というものはなく、フィオラの父親は決闘の作法を根本から犯していた。彼は平民の犯罪者と同じように公衆の面前で絞首刑に処せられ、家族は全員デマーシアから追放されることとなった。処刑の前日、フィオラは父親の収監された独房を訪ねたが、この時二人の間に何が交わされたのかは、彼女のみが知る。

いにしえから続く、だが忘れられた決闘作法は、家族の罪をその家族の一員が精算してもよいとしており、そうすれば国外追放という事実上の死刑宣告を避けることができる。選択肢がないことは明らかだったため、父と娘は「剣の広間」で相対した。正義とは、単なる殺戮で果たされるものではない。フィオラの父親は戦わねばならず、戦いを挑まれなければならなかった。目もくらむような速さの戦い。その優雅な剣の舞は、一目見れば忘れられないものになっただろう。フィオラの父親は優れた剣士として知られていたが、自身の娘の敵ではなかった。剣がぶつかるたびに両者は別れの覚悟を決めたが、ついに涙ぐんだフィオラの細剣が父の心臓を貫き、家族の国外追放処分を取り消すこととなった。足元で息を引き取った父親に代わり、フィオラはローレント家の当主となったのだ(彼女の兄たちにとっては大きな驚きであった)。

ローレント家の名誉は地に落ちたものの、醜聞とはたやすく忘れられるものだ。その後の数年間で、フィオラは家門の当主としての聡明さを示し、無謀な若さによる過ちを犯さないための学習は迅速なものだった。彼女は剣と交渉の腕を兼ね備えた比類なき女当主となり、慣習上の明確さをもってあらゆる問題の中枢に切り込み、残酷なまでにまっすぐに見えた。いまだに家の不名誉を囁いたり、女性が貴族の家門の当主を務めることを生意気だと非難したりする者もいたが、公の場でそれを口にする者はいなかった。そのようなゴシップがフィオラの耳に届けば、彼女はすぐに噂を広める者を呼び出し、剣によって正義の裁きを下すことだろう。ここに至ってさえ、彼女が実践的な狡猾さなしで行動することはなく、死を避けて十分な名誉を得られる道をも、それぞれの挑戦者たちに提示している。これまで、彼女の申し出を受けた者はおらず、フィオラとの決闘から生きて戻った者もいない。

幸運にもローレント家は蘇りつつあり、フィオラとの結婚を求める求婚者は後を絶たない。だが彼女のお眼鏡にかなう相手は現れていない。彼女が伝統的な妻となり権力を夫に渡してしまうことを防ぐため、孤高のフィオラの未婚を守る突破不可能な求婚の試練があると噂されている。

そう、フィオラが伝統や慣習に縛られることは、もうないのだ。



フィオラが殺そうとしている相手の名は、ウンベルトといった。彼は自信のある男のようだった。フィオラは彼が4人の男と話しているのを観察し、どうやら彼の兄弟であるようだと見て取った。5人の男たちはうぬぼれ、自信にあふれていた。彼女の挑戦に応えるためとはいえ、「剣の広間」には彼ら自身の存在すら不似合いだ。

高く尖った窓を通して、角のある円柱に夜明けの光が当たる。青白い大理石は、死の近づきつつある者を映してきらめいた。両家の者たち、使用人たち、見物人、単に流血沙汰を見たいだけの者たちが、広間の端に20人ずつ並んでいる。

「マイレディ」フィオラの次兄であるアムダーが、中くらいの長さの細剣を彼女に手渡す。刃の表面では、光が油膜のように踊っている。「本当にこれでよろしいのですか?」

「もちろん」フィオラは答える。「ウンベルトとその自慢屋の兄弟たちが、『コマーシア』で広めているお話については聞いているでしょう?」

「ええ」アムダーは答えた。「しかし、死をもって償うほどのものなのですか?」

「自慢屋をのさばらせておけば、何でも喋っていいと考える奴が他にも出てくるわ」とフィオラは言った。

アムダーはうなずき、後ろに下がった。「では、すべきことをなさいますよう」

フィオラは前に進み出て、両肩を回し刃で風を2回払った──決闘開始の合図だ。ウンベルトは兄弟のひとりに脇腹をつつかれて振り返り、いつまでもぐずぐずしている様子を見たフィオラが、見下した視線を自分に送るのを見て激昂した。彼は自身の武器を引き抜いた。黄金の鍔、柄頭にサファイアのはめこまれた、美しい曲線を描くデマーシア騎兵のロングサーベルだ。気取った武器であったし、決闘にそぐわない武器でもあった。

ウンベルトは自分の位置を示す印から前に踏み出て、フィオラが行った剣の動きを繰り返した。彼女に向けてお辞儀をし、ウィンクする。フィオラは口をへの字に曲げそうになったが、不快感を表に出すのは我慢した。決闘に感情は必要ない。偉大な剣士であろうとも、感情に流されて剣技を曇らせ、自らに劣る相手に敗れることがあるのだ。

両者は互いに円状に動き、ワルツの第一小節を踊るパートナー同士のごとく、定められた足取りと剣さばきを交わした。決闘で2人が行う動きは、彼らの試みををたちどころに描き出してゆく。

決闘儀式は重要なものだ。歩数を測るような彼らの動きは、殺人行為における高貴さの幻を民衆に印象づける意図がある。フィオラはそういった方式は良いものだと思っていたが、彼女が行おうとしていることが、目の前にいる男を殺すことだという事実はなくならない。そして、フィオラはそういった法を信じているから、申し出なければならない。

「良い腕前をしてらっしゃいますね。私はローレント家のフィオラといいます」と彼女は言った。

「その名乗りは墓掘りの前まで取っておくことだな」ウンベルトはぴしゃりと遮る。

幼稚な挑発を無視したフィオラは続ける。「私の家柄の正当性について、あなたが好き放題に悪意のある嘘偽りを吹聴し、不名誉で理不尽な方法をもってローレント家の名声を傷つけたことがわかりましたので、このようなことになっております。よって、家門の不名誉をあなたの血で雪ぐため、決闘を挑むのは私の権利です」

「そんなことはもうわかっておるわ」ウンベルトは返し、観衆に問いかけた。「そのために俺はここにいるんだろう?」

「あなたは死ぬんですよ」フィオラは語りかける。「あなたがしでかしたことについて、私を満足させてくれれば、戦わずに済ませることもできますが」

「どうすれば満足していただけるのかな、ご夫人?」ウンベルトは尋ねた。

「もしどうやっても口をふさぐことができないなら、右耳を切り落としていただけますか」

「は? この女郎、狂ってやがるのか?」

「さもなくは私に殺されるかです」まるで天気の話でもしているかのごとく、フィオラは言い放つ。「この決闘を終わらせる方法はおわかりのはずです。降伏しても恥ではありませんよ」

「もちろんだろう」とウンベルトは言い、フィオラは彼が決闘に勝てると思っていることを悟った。誰もが思っているように、彼もフィオラを侮っているのだ。

「ここにいる方々は皆、私の剣の腕をご存知でしょう。ですから、生きて、戦傷を名誉勲章としてお持ち帰りください。さもなければ死ぬことになります。朝方には烏の餌になりますよ」

フィオラは剣を掲げた。「さあ、選んで」

フィオラの尊大さに圧倒され恐怖していると感じた彼は激怒し、大きく前に踏み出して彼女の心臓へと剣の先端を突き出した。フィオラは攻撃の予兆を読み取り、左へと90度ターン、刃が切ったのは彼女の髪の毛のみ。フィオラの剣が逆袈裟に跳ね上がり、反対側へと斜めに切り下ろされ、正確な直角の弧を描く。石の床に撒き散らされる血、そして決闘の唐突な幕切れに、観衆は息を呑んだ。

御影石の床にウンベルトの剣が落ち、フィオラは向き直った。ウンベルトは膝から崩れ落ち、座り込むように後ろへと倒れる。次から次へと血があふれ出す喉の傷口をふさごうとするかのように、彼の手は自らの喉を握りしめていた。

フィオラはウンベルトへと礼をしたが、彼の眼は既にガラスのように生気を失い、その死は目前だった。このような殺戮でフィオラが快楽を感じることはないが、愚者には選択の余地がなかったということだ。ウンベルトの兄弟たちが屍を持ち帰るために進み出てきており、兄弟の敗北にショックを受けている様を、フィオラは感じ取った。

「いかがでしたか?」彼女の剣を回収するためにやってきたアムダーが尋ねる。「15%? それとも20%?」

「30%ね」フィオラは答えた。「それ以上だったかも。もうみんな同じに見えるわ」

「それ以上なのでしょう」兄はそう請け合った。

「そうね」フィオラも返す。「でも、死を積み重ねれば、我らが家門の名誉も回復してゆく。死を積み重ねれば、救済が近づく」

「どなたの救済で?」アムダーは尋ねた。

フィオラが答えることはなかった。